計画的なMOS
奇妙なことに、日本のマスコミや評論家は、経済や政治の背後にある民族問題に触れたが中華経済圏は「めちゃくちゃ儲けて悪いのですか」の世界ここまで、中国および華人経済圏について、どちらかといえば肯定的な側面を見てきた。
中国大陸ではまがりなりにも経済成長が続き、その周縁部で華人が着々と実力を蓄えていることはたしかだ。
だからといって中国および華人ネットワークが形成する中華経済圏が、すぐさま基軸通貨「元」を押し立てて、アジアからアングロ・サクソン型経済を駆逐するとはいえない。
否定的な面も見てみよう。
まず、これまでのところ、元に東アジア全域の通貨となる力はなく、また、華人ネットワークにアングロ・サクソン経済に対抗できるような資本の蓄積が進んだわけではないことがあげられる。
最近は、中国の国営四大銀行の時価総額が、株式上場によって巨大なものになったことが報じられ、日本の金融機関の買収すら取り沙汰されている。
たしかに、たとえば中国工商銀行の時価総額は二○○六年末で一三兆三○○○億円相当にならない傾向がある。
浅薄な人権主義によるものなのか、単なる不勉強によるものなのかはわからないが、私たちがアジアの現実を直視しようとしたとき、大きな障害になっていることは間違いない。
上り、世界の金融機関で第四位に急上昇した。
三菱UFJの一五兆九○○○億円をはるかに超えている。
これでは脅威を感じないほうが無理というものだろう。
中国の国営四大銀行の総資産は、かなりの割合の不良債権を含んでおり、状況しだいでは株価の急落、つまり時価総額の急落の要因となる。
もちろん急騰した株式によって行なわれる買収は警戒すべきだが、張子の虎のような時価総額であることは否定できない。
そもそも、中国政府は国営四大銀行の不良債権を処理するため、ゴールドマン・サックスを中心とする外国の投資銀行や証券会社などから出資を募らざるを得なかった。
中国政府は、かつての方針とは異なり、華人ネットワークに期待をかけているようだが、中国の国営銀行や華人ネットワークに、中国の不良債権問題を解決できるような力があったわけではない。
また、中華経済圏の性格にも注意が必要だ。
急速に規模を拡大しているのはたしかでも、そこにはアングロ・サクソン型経済と異なる論理があるかといえば、そうではない。
中国大陸が「世界の工場」となり、モノ作りのチャンピオンのように見えないこともないが、実際には外国の資本を引き入れ、外国の企業を誘致して繁栄している段階にすぎない。
この「世界の工場」を取り巻く華人ネットワークの経済も、とても地道な発展を遂げているとはいえない状態だ。
前出の樋泉氏は次のように述べている。
「ASEANの華人企業家と香港、台湾、マカオ、中国大陸の企業家との間には、やはり共通する企業文化を認めねばならないことに気がついた。
それをとりあえず一言でいえば、『拝金主義』、つまり『カネをムチャクチャ儲けて、いったい、どこが悪いのですか』ということになる。
だから、彼らにとって当たり前であるはずの経済活動を展開しただけの村上ファンドやホリエモンが非難され、あまつさえ彼らを司直の手に委ねてしまう日本人の感覚は、おそらく彼らには理解しがたいに違いない」ここには、証券化したアングロ・サクソン型経済と異質なものが存在するのではない。
むしろ、さらに俗悪で直裁な金融経済が沸き立っているだけなのである。
そこからは、証券化によって不安定になった世界経済を克服する論理は生まれてこない。
中国経済との関連で、インド経済についても見ておくことにしよう。
最近まで中国が買いだと煽っていた経済評論家が、今度はインドが買いだとご託宣を述べる。
また、新興市場国に注目しろと言ったはずなのに、今度はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、チャイナ)が世界経済を牽引するという。
ほかにもIBSAC(インド、ブラジル、南アフリカ、チャイナ)というのがあるらしい。
こうした標語は、たいがいは金融会社が投資を煽るために考えたものだ。
いまをときめく向けに配ったレポートで初めて登場したもので、「BRICS投資信託は、いまが買いどき」というわけである。
さらに最近は、「チンディア」という言葉も使われるようになった。
チャイナとインディアの合成語である。
アメリカの経済週刊誌『ビジネス・ウィーク』二○○四年八月二十二日号は、「スペシャル・ダブルイシュー」と銘打って「中国とインド」の大特集を掲載した。
「第二次世界大戦後、日本や韓国でも経済の奇跡は見られた。
世界規模での成長や産業の全範囲にわたってゲーム変更に至るには力不足だった。
これに比べて中国とインドは、二十一世紀のグローバル・エコノミーを変貌させる重量感とダイナミズムがある」もちろん、二○○四年現在では、世界GDPに占める割合が、アメリカ二八%、EU二一四のエコノミストが、今後数十年にわたって中国とインドは七%から八%の成長を維持するファンダメンタルズ(基礎体力)を保持していると予想している」というのだ。
GDPの45%にまで達するという。
そうなれば政治的にも中国とインドは、いまとはまったく異なる存在感を示すことになる。
インドのコンサルタント会社キーストーンによれば、二○二五年の世界GDPはアメリカ二七%、EU二五%、日本七%、中国一五%、インド五%という構図に変わるという。
さらに二○五○年にはアメリカ二六%、EU一五%、日本四%、中国二八%、インド一七%にまで至ると予測している。
もちろん、あくまで予測であって、現状をそのまま延長してみた以上の意味があるわけではない。
中国とインドを合わせて四五%というのが大袈裟だとしても、二国の比重が急速に上昇していけば、世界およびアジアにとって大きな意味を持つ。
私がいいたいのはグローバル経済がますます盛んになって、世界はさらに一体化していくなどということではない。
政治的独立を確保しなければ、アングロ・サクソン型から脱却できない中国とインドはBRICSに加えられるように「国土が広く、資源が豊かで、人口が多い」という点では共通点が多いが、産業の発達を比較すると絶妙の補完関係にあると同誌はいう。
中国は「世界の工場」に職えられるようにモノ作りが主体だが、いつぽう、インドは「世界のソフトウエアハウス」といえるほどソフトウエアにおいて急伸している。
中国とインドが協業を行なえば、「チンディア」経済圏はこれまで以上に磐石なものになるという。第二次世界大戦後、アジアは社会主義化した中国やインドなどを置き去りにして、資本主義的には次々と経済的繁栄を実現していったが、すべてアメリカに軍事を頼る「半主権国」としてのことであり、日本をその典型として政治的にも軍事的にも主権国家とはいえない半人前の国家だった。
したがって、経済的にいかに成功しようと、ナショナリズムがいかに高揚しようと、十九世紀的な意味で国民国家になろうとする動きには制約が存在した。
ところが、遅れてきた新興市場国である中国とインドにおいては、事情がかなり違う。
中むしろ、ある意味でまったく逆の傾向が生まれてくるのではないかということだ。
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